請求できる遺留分侵害額の計算方法について
被相続人の遺贈や生前贈与によって、自分の遺留分すら相続できなくなる法定相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く。)は、遺留分侵害額請求をすることができます。
その場合に、請求できる遺留分侵害額は、以下のように計算します。
※令和元年7月1日に施行された民法改正により、同日以降に発生する相続については、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と改められ、侵害額に相当する金銭の支払いを請求するものとなりました。
【計算方法】
1)遺留分権利者全員の全体的遺留分について
直系尊属(被相続人の親や祖父母など)のみが相続人の場合は全員で3分の1となり、それ以外の場合は全員で2分の1となります。
2)具体的な遺留分の計算
遺留分権利者が複数いる場合には、
(全体的遺留分)☓(各自の法定相続分)
により、各人の具体的遺留分を計算します。
(法定相続分)は、法定相続人の組み合わせによって、以下のようにして決まります。
- 配偶者と直系卑属(子、子が死亡している場合の孫など):配偶者2分の1、直系卑属2分の1
- 配偶者と直系尊属(父母、父母が死亡している場合の祖父母など):配偶者3分の2、直系尊属3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹(死亡している場合はその子):配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
- 配偶者のみ、直系卑属のみ、直系尊属のみ、兄弟姉妹のみ:いずれも1分の1(100%)
法定相続人の直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、それぞれの持分を人数で均等に分けます。
例)法定相続人が配偶者1人、子供2人の場合
法定相続分:配偶者2分の1、子ら各自4分の1(子ら合計2分の1)
法定相続人全員の遺留分:全体の2分の1
→妻の具体的遺留分:4分の1
→子の具体的遺留分:各8分の1
3)具体的遺留分の「額」の計算
法定相続人の具体的遺留分の額は、以下の式により計算します。
(具体的遺留分の額) = 「基礎財産」 ×(具体的遺留分)
上の式に出てくる「基礎財産」は、以下の式により計算します。
基礎財産 = 相続財産 + 贈与財産(※) - 債務
(※)上の式に出てくる贈与財産には、以下のものが含まれます。
- 相続開始前1年間にした贈与
- 当事者双方が遺留分を侵害する認識を持ってした贈与(不相当な対価で行った有償の処分を含む。)
- 相続開始前10年間に、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として行った相続人への贈与(「特別受益」といいます。)
なお、贈与財産の額は、相続開始時を基準に評価するため、古い贈与財産も相続開始時の価値に換算されます。
4)遺留分権利者の遺留分の「侵害額」の算定
(遺留分侵害額)=(権利者の具体的遺留分の額)-(権利者が「具体的相続分に応じて取得すべき遺産(※1)+遺贈+特別受益(※2)-債務」の額)
要するに、「遺留分権利者が相続・遺言や特別受益によって被相続人から取得する財産(債務も含む。)の金額」が「遺留分権利者の具体的遺留分の額」に足りていない分が、侵害された遺留分の額となるわけです。
(※1)例えば遺言が一部の財産に対してしかされていないような場合には遺産分割が必要となりますが、「具体的相続分に応じて取得すべき遺産」ですから、実際に遺産分割が行われていても、あるいは具体的相続分と異なる内容で遺産分割が行われていても、それらに関係なく「具体的相続分に応じて取得すべき遺産」の額が計算されることになります。
なお、具体的相続分は、特別受益の額を相続財産の額に加えたうえで算定された相続分のことをいい、この場合の特別受益には、3)の場合と違って、相続開始前10年間にしたものに限られず、それ以前の古いものも含まれることになります。
(※2)この場合の特別受益は、3)の場合と違って、相続開始前10年間にしたものに限られず、それ以前の古いものも含まれることに注意してください。
上記の1)ないし4)の計算で遺留分侵害額請求の請求金額が算出されるわけですが、実際にはかなり難しくなりますので、遺留分侵害額請求をしたいとお考えの方は、お早めに当事務所の法律相談に申込みをして下さい。