遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求〕の方法
被相続人の遺贈や生前贈与によって、自分の遺留分すら相続できなくなる法定相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く。)は、侵害されている自分の遺留分を取り戻すために、被相続人から多めに遺贈や生前贈与を受けた人に対して、その遺贈や生前贈与の全部または一部失効させる遺留分減殺請求権を行使することができます。
〔※令和元年7月1日に施行される民法改正により、同日以降に発生する相続については、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と改められ、侵害額に相当する金銭の支払いを請求するものとなりました。〕
遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求〕の時期について
- 遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する贈与、遺贈があったことを知ったときから1年
または、 - 相続開始のときから10年
が経過してしまうと、遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求権〕ができなくなってしまいます(民法第1042条〔1048条〕)。
したがって、これらの期間内に実行する必要があります。
遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求権〕の際に具体的な侵害額を示す必要はないので、とにかく期間内に遺留分減殺請求の意思表示をすることが重要です。
また、この期間内に遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求権〕をしたことを証明するために、遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求権〕の通知書を内容証明郵便(配達証明付)で出しておくのが一般的です。
安全策として、とりあえず相続開始日、つまり被相続人の死亡日から1年が近づいてきたら早めに、遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求権〕の内容証明郵便を出すのがよいでしょう。
なお、遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求権〕は裁判所の手続きの中で行う必要はありません。
遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求権〕の対象について
どの遺贈等が遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求〕の対象となるのかについては、以下の順位で決定されます。
- 遺贈(相続分の指定、遺産分割方法の指定、特定財産を相続させる旨の遺言による相続も含みます)
- 死因贈与
- 生前贈与(※)
(※)遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求〕の対象となる生前贈与は、以下のものに限られます。なお、最近の生前贈与から遡って順に古い生前贈与が対象となります。
- 相続開始前1年間の贈与
- 贈与の当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って行った贈与
- 婚姻・養子縁組のため、または生計の資本等として行った相続人への贈与(特別受益)
〔※令和元年7月1日に施行される民法改正により、同日以降に発生する相続においては、特別受益について、相続開始前の10年間にされたものに限られることとなります。〕
以上のとおり、遺贈を減殺してもなお遺留分が確保できない場合にのみ、死因贈与が減殺の対象となり、遺贈や死因贈与を減殺してもなお遺留分が確保できない場合にのみ、生前贈与が遺留分減殺請求の対象となります(民法第1033条〔1047条〕)。
なお、遺贈の対象財産が複数ある場合には、各財産の価額の割合に応じて全ての遺贈が対象となります(民法第1034条〔1047条〕)。
また、贈与が複数ある場合には、新しい贈与から古い贈与の順に遡って遺留分減殺請求減殺請求の対象となります(民法第1035条〔1047条〕)。
遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求〕の相手方は、基本的には遺留分を侵害する遺贈、贈与を受けた人です。
具体的には、ケースによりますが、受遺者、受贈者、その包括承継人、悪意の特定承継人、遺贈をまだ履行していない場合には遺言執行者などです。
遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求〕の後はこうなります
遺留分減殺請求〔遺留分侵害額請求〕をすると、遺留分を侵害する遺贈等は遺留分を侵害している部分について効力を失います(その部分の所有権等は遺留分減殺請求者に帰属することになります。)。
その結果、遺留分減殺請求を受けた相手方は、遺贈、贈与を受けた財産のうち、侵害額に相当するものを返還する義務を負ったり、侵害額に対応する割合で相手方と遺留分減殺請求者との共有状態となるのですが、相手方は対象物件の全部または一部について金銭での弁償を選択することができます。
つまり、遺留分権利者が遺留分減殺請求をすると、遺贈等の対象物件の一部(現物)か、あるいは金銭が取得できることになります。
なお、金銭での弁償がされず、対象物件について相手方との共有状態が残った場合、これを解消するためにはさらに、持分の売却、買取りの交渉をしたり、共有物分割(場合によっては遺産分割)請求などの手続きを行わなければならないことになります。
〔※令和元年7月1日に施行される民法改正により、同日以降に発生する相続については、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と改められ、侵害額に相当する金銭の支払いを請求するものとなりましたので、請求の効果について改正の前後で大きな変更が生じています。〕