現在、民法の相続に関する法改正が実現する見通しとなっており、政府は本日、民法改正案など関連法案について閣議決定をしたそうです。
その改正項目の中で主なものを順に紹介していきます。
今回は、配偶者の居住権についてです。
この改正案では、被相続人の居住建物に関する権利として、所有権以外に「配偶者居住権」(残された配偶者が終身あるいは一定期間、被相続人の遺産である建物に住み続けることができる権利)という権利を新たに認めています。
改正案の内容は、残された配偶者が居住していた居住建物の配偶者居住権を遺産分割等によって取得したときは、居住建物の所有権が別の相続人らが所有することになったとしても、無償で、亡くなるまで(あるいは一定期間)、その居住建物に住み続けることができるようにするというものです。
被相続人の死後に残された配偶者が遺産分割によって配偶者居住権を取得する場合以外にも、生前に、残される配偶者に対して配偶者居住権を遺贈する内容の遺言をしたり、夫婦間で死因贈与契約を締結しておくことによって、死後に配偶者が配偶者居住権を取得することができます。
この改正は、現行法の下では、法定相続分に従って相続人らが遺産分割をするときに、残された配偶者が自宅での生活を続けるために居住建物を相続することとした場合には他の預貯金などの遺産が十分に相続することができず(居住建物を相続するために他の相続人に代償金を支払わなければならない場合も)、生活が不安定になるといった事態が生じていたことなどを考慮し、配偶者保護のためになされたものです。
配偶者居住権の評価額(時価額)は平均余命などをもとに算出され、所有権を取得するよりも低額となるため、結果的に配偶者は従来どおり居住建物に居住しつつも、預貯金などの他の遺産を十分に相続することができることが期待されているといえます。
ところで、配偶者居住権の取得原因となる遺産分割については、最も中心的な方法である「遺産分割協議」や「遺産分割調停」では、成立に他の相続人との合意が必要となるわけで、改正後も、他の相続人が配偶者の居住権取得(と他の遺産の相続)を認めてくれなければ遺産分割が成立せず、その場合、配偶者居住権が認められるかどうかは、「遺産分割の審判」で裁判官の判断に委ねられることになります。
つまり、遺産分割についていえば、上記のような配偶者保護を実現することは必ずしも容易ではないと思います。
そのため、他の配偶者居住権の取得原因に着目して、生前に、配偶者に対して配偶者居住権を遺贈する内容の遺言(や死因贈与契約)をしておく重要性がむしろ高まっているといえるのではないかと個人的には考えています。