民法改正(3)配偶者に贈与された住居は原則として持戻しが免除されます

 

現在、民法の相続に関する法改正が実現する見通しとなっており、政府は既に民法改正案など関連法案について閣議決定をしております。

さて、今回の記事で紹介する改正点は、配偶者保護のための方策として「持戻し免除の意思表示の推定規定」を設けるというものです。

民法改正要綱には、「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地(第1・2に規定する配偶者居住権を含む。)について遺贈又は贈与をしたときは,民法第903条第3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定する。」とあります。

 

さて、ここに「持戻し免除」という用語が出ていますので、説明します。

相続人のうち一部が被相続人から生計の資本等として生前贈与(特別受益)を受けていた場合には、相続の際に、その特別受益財産を相続財産に加算したうえで相続人の相続分の算定を行うことになり(特別受益財産については遺産の前渡しを受けていたものとして扱われ、相続によって取得できる財産が減少することになります。)、これを「特別受益の持戻し」といいますが、遺言でこの持戻しを行わないように免除することができるのです。

 

したがって、今回の改正では、結婚生活が20年以上の夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者に対して生前贈与や遺贈をした住居(土地、配偶者居住権を含む。)については、持戻し免除の意思表示があったものと推定される結果、原則として、生前贈与等によって配偶者が取得した住居を相続財産に持ち戻さずに相続分を計算して遺産分割をすることになるのです。

 

この改正により、残された配偶者は、贈与等を受けた住居を除いた遺産の2分の1(以上)の相続分を相続できることになり、贈与等を受けた住居を含めた遺産の2分の1(以上)の相続分を相続する現行法よりも、結果として相続によって取得できる財産が増えることになります。

たとえば、夫が自宅(評価額2000万)と預貯金3000万円を持っており、自宅については妻に生前贈与をした後に、子供一人と妻を残して亡くなった場合、遺産分割における妻の相続による取り分(自宅以外)は、原則として以下のとおりとなります。

現行法:(自宅2000万+預貯金3000万)×1/2-自宅(2000万)=預貯金500万

改正法:預貯金3000万×1/2=預貯金1500万

 

ただし、結婚生活が20年以上の夫婦について、亡くなった配偶者が他方の配偶者に対して生前贈与や遺言をしていた場合の話ですので、結婚生活が20年未満である場合や、生前贈与も遺言もしていない場合には、結局、現行法と同じく配偶者が住んでいる住居も遺産に含めて遺産分割が行われることになります。

今回の改正(持戻し免除の意思表示の推定)は、夫婦がともに生きていて、他に推定相続人がおり、自宅があるというような場合でさえあれば適用できますので、改正の影響は大きいといえるでしょう。

現在でも、夫婦間で生前贈与も遺言もしていないケースはたくさん見受けられますが、今回の改正によって、残される配偶者のために生前贈与や遺言をする理由がまた一つ増えたのではないでしょうか。

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